貧困問題を自分事としてリアルに感じられる小説-「神さまを待っている」畑野智美

小説

発売日:2021年10月6日

ページ数:336ページ

若い女性の貧困が問題視されているのは知っていましたが、実際にどうなのかはよく分かりませんでした。

東京の新大久保で「立ちんぼ」をしている女性のことが取り上げられることもありますが、本当に生活ができないほどに貧困なのか、それともホストや推しにお金をつぎ込むために売春をしているのか、よくわかりませんでした。

この本は東京都内で派遣社員として真面目に働いていた20代の女性が派遣切りに遭い、あっという間に住居を失い、貧困に陥る様子をリアルに描いています。

こう言ってはなんですが、こんなに簡単に人は貧困に陥ってしまうことに驚きました。

26歳の水越愛は派遣社員として文具メーカーの事務の仕事をしていました。

3年間の派遣社員期間後、正社員登用ができないと派遣先の企業から言い渡され、派遣切りに遭います。

愛は真面目にきちんと働いており、生活もとても質素。

派手に遊んでいたわけでもなく、貯金も少しですがきちんとしていました。

派遣切りに遭い、失業保険を支給されていましたが、その期間中に再就職先を見つけることができませんでした。

そのため、アパートの家賃が払えなくなり、マンガ喫茶で寝泊まりするホームレスになってしまいます。

正社員での採用を望んでいたこともあり、ホームレスになります。

実家の家族関係は複雑で、実家は裕福なのに相談も支援もしてもらうことができず、「自分でどうにかしなければ」と思う彼女はどんどん追い詰められていきます。

毎日マンガ喫茶で寝泊まりし、昼間は日雇いバイトで食いつなぐ日々。

マンガ喫茶で知り合った同年代の女の子に誘われて、愛は出会い喫茶に出入りするようになります。

出会い喫茶は客から氏名を受け、食事やお茶などを一緒にしてお金をもらう「茶飯」、事実上の売春をする「ワリキリ」に分かれており、店内でそれらのことを行うわけではなく外出するため、風営法にひっかからないという非常にグレーな業態であることをこの本を読んで初めて知りました。

愛は出会い喫茶に出入りしている間に様々な事情を抱えた10~20代の女性たちと知り合います。

「ワリキリ」をしている女性がほとんどで一向に出口が見えない状態にいる女性たちがほとんどでした。

この本を読んでいて分かったことは、一度貧困状態に陥ってしまうと、状況を変えるためのアクションが起こせない精神状態に陥ってしまうことです

愛のように企業で事務の仕事をしていた人ならば、日雇いや出会い喫茶などに行かなくてもアルバイトでもなんでも昼間の仕事を見つけて働いてはどうかと思うのですが、一度マンガ喫茶に寝泊まりし、炊き出しをもらうような生活になってしまうと、その状況から抜け出すことが難しくなっていく、抜け出すための気力がなくなっていくのだなということがよく分かりました。

愛は区役所に勤務している同級生が彼女を探し出し、貧困から抜け出すための手助けをいろいろしてくれて、最終的に前に一歩踏み出しました。

が、貧困から抜け出す手助けをしてくれる福祉やボランティアにつながること自体がとても難しく、愛が出会い喫茶で知り合った貧困女性たちの出口は見えずに物語は終わります。

若い女性の貧困がテーマですが、誰にでも起きうる話で誰でも何かのきっかけであっという間に貧困に陥ってしまうのだなという怖さを感じました。

この本に「貧困というのはお金がないことだけではなく、誰にも助けを求めることができない状態」と書かれていましたが、まさにその通りだなと思いました。

主人公の愛は最後は貧困から抜け出す糸口が見つけられたのですが、とても気持ちが重くなる小説でした。

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