安楽死と臓器移植がつながっていることに気付いた本-「安楽死が合法の国で起こっていること」児玉真美

ノンフィクション

発売日:2023年11月9日

ページ数:288ページ

数年前から日本でも安楽死に関する議論が一部で話題になっています。

神経難病を患った女性がスイスで安楽死をする場面を実際に同行取材したドキュメンタリーTV番組が放送されたことも、話題になりました。

(その後、様々な番組で安楽死は取り上げられ、何人もの日本人がスイスで安楽死していることも話題になりました。)

現在、スイスを含むヨーロッパの数か国、カナダ、オーストラリアなどで安楽死が認められています。

スイスでは国外に住んでいる外国人の安楽死も受け入れているため、日本人でもスイスで安楽死の処置を受けている人がいます。

これらの国は安楽死の合法化や制度の整備などが進んでいます。

安楽死によって救われる人が出てきて、良い方向に進んでいると思っていたのですが、この本を読んで安楽死を肯定的に見ることができる内容ばかりではないことに気付かされました。

主に欧米で合法化されている安楽死制度は、安楽死を希望する人が病気やケガで余命いくばくもないこと、いかなる治療でも回復の見込みがないこと、自分で意思決定できること(本当に安楽死を希望しているのか、安楽死の決行を自分で決めることができるか)が条件でした。

当初は癌や難病などの重病で余命が短い人などがメインの対象者で、対象者と認定される基準も厳しいものでした。

ところがここ数年でその基準や規制がどんどん緩くなってきていることをこの本で知りました。

現在は認知症や一部の精神疾患も安楽死の対象になっているようです。

どうしてここまで基準が緩くなったのか?癌や難病だけでなく、苦しんでいる人への門戸を広げたのだろうか?と最初はポジティブに捉えていました。

しかし、この本を読み進めていくうちにそれが私の勘違いであることが分かりました。

癌や難病の場合、一定の臓器がすでに病気に侵されていますが、認知症や精神疾患などの場合は肉体的には健康な人が多く、安楽死した人の臓器を移植に使えるという裏事情があるのです。

そのため、今までは肉体的な重病者を対象にしていた安楽死対象者の基準がどんどん緩和されていることが赤裸々に書かれていました。

確かに日本でも国内でドナーを見つけることが難しく海外まで移植手術を受けに行く人がいます。

どの国でも臓器移植のドナー不足は深刻で「ドナーの調達は自国で」と基本的には言われています。

ドナー不足が深刻だからこそ、貧困国での臓器売買ビジネスがあり世界的な問題になっています。

そこに安楽死制度の対象者の幅を広げて安楽死者から臓器を提供、移植に回そうという動きが出ているそうです。

癌や難病などを患い、辛い思いをしている方が安楽死で救われるのならそれは良いことではないのか?と思っていたのですが、まさか安楽死制度の先進国と言われている欧米でそのようなことが起きているのは思いもしませんでした。

「安楽死制度は重病で苦しんでいる人を救うひとつの方法」だと思っていたのですが、その考えが根底から覆されました。

著者のお子さんは重度の知的障害と身体障害をお持ちで現在は施設で暮らしているそうです。

安楽死制度の対象者が癌や難病などの肉体的な病気に限定されていたのに、それが 認知症や精神疾患まで対象拡大になり、そのうち著者のお子さんのような重度の障がい者も対象になってしまうのではないかと、この本で著者が懸念していました。

最初は苦しむ肉体的な重病者を救う一助だった安楽死制度が、どんどん違う方向に進んでいるように感じました。

欧米では安楽死制度について議論も活発になされて合法化されてきたはずです。

そのような国でも安楽死制度の方向性が少しずつ少しずつ変更されていくことに、恐ろしさを感じました。

だからといって、安楽死制度自体がすべて悪だとは言い切れず、重病者が余命いくばくもないのに壮絶な痛みや苦しみと共に最期を迎えるのはどうなのか、安楽死という選択肢があることは悪いことではないのではないかと、いろいろ考えさせられました。

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