「生きることは食べること」を思い知らされる切ないホラー小説-「かにみそ」倉狩聡

小説

発売日:2025年9月25日

ページ数:256ページ

ホラー小説です。

でも、タイトルは「かにみそ」。

タイトル見た時、「ホラーなのに、かにみそ?なんじゃそりゃ?」と思いました(笑)。

主人公は20代の独身男性と彼が拾った「かに」です。

「かにみそ」がテーマでも主役でもありません。

設定がとても不思議な小説でしたが、怖いだけでなく切ない気持ちになる本でした。

全体を通して、「食べることは生きること」を思い知らされる切ない話でした。

主人公は両親と同居する20代の独身男性。

彼はフリーターで定職に就かずにいますが、両親は彼を責めるわけでもなく彼のフリーター生活に理解を示しています。

共働きで忙しい両親に代わり、彼は家事全般を担っています。

そんな彼が自宅近くの海岸でカニを拾います。

自室で育てていたのですが、そのカニはどんどん大きくなり、どんどん食欲が旺盛になっていきます。

彼はカニの餌代を稼ぐためにアルバイトをどんどん増やしていきます。

カニはなぜか言葉を話すことができ、主人公と家族のような関係になっていきます。

主人公がある日ひょんなきっかけで付き合っていた彼女を殺してしまい、遺体の処理に困ってしまいます。

その時、自室で飼っていたカニにその死体を食べてくれるように頼みます。

そのことをきっかけにカニは人を食べることを躊躇しなくなり、夜中に様々な人を襲い食欲を満たしていきます。(のちにカニは誰彼構わず食べていたのではなく、悪人を選んで食べていたことが分かる)

当初は主人公と一緒に食べる対象を選んでいたのに、いつしかカニは勝手に家から出て勝手に人を襲っていきます。

そのことを後に知り、主人公はカニに嫌悪感を抱くようになり、最後に。。。。という展開です。

ラストは「まさかこういう展開とは・・・」という終わり方をするのですが、このラストを読むと「生きることは食べること」なんだなとつくづく分かります。

ただ怖いだけの話ではなく、人とカニの信頼関係、その信頼関係が崩れていく様、カニが人を食べることの意味などがだんだん分かってきて、なんとも切なく、なんとも深い話でした。

ホラー小説と一言で言ってしまうのはとてももったいない小説でした。

この本にはもうひとつ「百合の火葬」というホラー小説も収録されているのですが、こちらも怖いけどなんとも切ない気持ちにさせられる話でした。

怖いだけではなく趣深いホラー小説を読みたい方に特におすすめです。

ホラー小説への印象がガラッと変わる本です。

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