原発事故の実情を詳しく知ることができる本-「死の淵を見た男」 門田隆将

ノンフィクション

出版日:2016年10月25日
ページ数:516ページ

東日本大震災からもうすぐ12年が経とうとしています。

私は福島県で被災したのですが、その当時は断水や停電が3週間近く続き、日々の生活をどうにかこうにかやり過ごすことに必死でした。

東京電力福島第一原発が事故を起こした時も原発から離れたところに住んでいたため、何が起きているのかよくわからずにいました。

震災からかなり時間が経ってから原発事故当時、何が起きていたのか知りたいと思いました。

そんな時に映画「Fukushima50」が上映されました。

この本はその映画の原作になります。

原発事故の際、構内はどのような状況だったのか。

そのことを丁寧に調べてインタビューを重ねたルポルタージュです。

非常に読みやすく、現場の緊張感や重大な事態が起きていることをストーリーの流れからひしひしと伝わってきます。

原発事故当時、福島県では原発で実際に何が起きているのか、情報が流れてきませんでした。

原発が水蒸気爆発を起こしたということはテレビの映像でわかりましたが、その他の情報はほとんど知らされませんでした。

情報操作が行われていたとは思いませんが、当時は誰も実際に何が起きているのかわからなかったのだと思います。

この本を読んで、原発事故当時、本当に過酷で絶望的な状況の中で「原発の爆発を止めなければ」「放射能汚染を広げないようにしなければ」と必死の思いで原発職員の方々は対応してくださっていたことを知りました。

この本は地震が発生したところから始まります。

大地震が発生し、地震による被害がないかどうか確認をしているところに津波がやってきます。

海岸沿いに建っている原発建屋は津波の被害を受けないように高台に建てられていますが、その想定をはるかに超える大津波が押し寄せます。

原発建屋が津波によって破壊され、原発自体も電源喪失で稼働できない状況に陥ります。

初めての大事故に現場は混乱、原発職員や技術者は大事故にならないように必死に対応します。

それに対して東京電力本社の対応はあまりにも酷い。

「現場のことは現場で対応してくれ」「あまり被害がひどくならないようにどうにかしろ」「勝手なことはするな」とすべて現場に責任を押し付けます。

電気も水もない、職員たちの食事も足りない、寝る場所もない、人手が足りないという状況が何日も続く中、迅速な決定も対応も行わない東京電力本社には呆れるを通り越して唖然としてしまいました。

自衛隊や消防、警察、様々な技術者、たくさんの人が協力してくれますが、それでも東京電力本社の決定は二転三転、対応が後手後手に回ります。

そのいらだちやストレス、大事故を防がなければならない現場のプレッシャーは言葉では言い表せないほどだっただろうと想像できます。

当時、福島第一原発の所長だった吉田氏の「何が何でも大事故を防ぐ」という執念にも似た思い、現場の責任者であることの責任とプレッシャーがこの本からはひしひしと伝わってきました。

原発で仕事をしていたそれぞれの人たちが命を懸けて、多大な責任とプレッシャーとストレスと闘いながら作業をしていたことが、この本から良く分かりました。 

「日本の原発は安全」と言われてきましたが、想定外の天災や事故に対する対応は本当に脆弱なんだなという事実を突きつけられました。

あの事故から12年が経とうとしていますが、日本の原発は事故に対する対応を徹底的に見直したのだろうか?と疑問に思いました。

原発再稼働は致し方ない部分があるとは思うのですが、東京電力福島第一原発の事故から教訓を得て、事故に対する徹底した対応が取られているのだろうか。

この本は実際にあった原発事故の状況を知るためのとても良い本です。

原発事故が実際に起きるとはどういうことなのか、その事故によって現場の職員、地元住民などにどれほどの影響を及ぼすのか、それらを改めて知ることができます。

たくさんの原発がある日本において、いつどこで同じような事故が起きても不思議ではありません。

原発の再稼働をするのなら、再度見直しを徹底し、どのように安全に運用できるのかを考えるべきだなと改めて思いました。

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