発売日:2022年9月7日
ページ数:232ページ
あまり小説を読まないのですが、今回はライトノベル寄りの小説をご紹介します。
かなり不思議な本です。
ただ、この本の主人公である女子高生が抱えているような思いを持ちながら生活している人は世の中にいるかもしれないなと思いました。
主人公の女子高生、三橋唯は「ものを食べる」ということに嫌悪感を抱き、水やサプリ以外を「食べる」ことができません。
食べても気持ち悪くなってしまい、嘔吐してしまいます。
一般的に拒食症は精神的な問題(外見を気にしたり、人間関係などのストレスによるもの等)によって引き起こされます。
唯の場合は拒食症ではなく、シンプルに「ものを食べて飲み込むこと」が気持ち悪いという、生理的な問題を抱えています。
もちろん根底には精神的な要因があるのでしょうが、それについてはあまり触れられていません。
「食べられないこと」によって引き起こされるさまざまな問題やストレスを抱えていたある日、同級生の噂話に興味を持ちます。
街はずれの洋館に吸血鬼が住んでいるという噂。
その話に興味を持った唯はその洋館を訪ねます。
その洋館には30代の男性がひとりで住んでおり、その人「泉さん」は遺伝病の影響で物が食べられず、血液を飲んでしか生きることができません。
「食べられない」という共通項を持つ2人は唯が夏休みの間、一緒に過ごします。
食べられない2人が日常生活で「食」というものを意識せずに過ごせることはとても快適な空間となります。
しかし、高校生の唯にはさまざまな葛藤や人間関係があり、世間から離れて暮らす泉さんとは状況が異なります。
家庭や学校でのストレスやいろいろなことがあり、親に「食べられない」ことを打ち明けたり、心療内科に通ったり、「食べられない人たち」の自助グループに通ったり少しずつ今の状況を変えるための努力を始めます。
途中で泉さんと喧嘩別れ(と言っても恋愛の意味ではない)をしたり、同級生が唯の「食べられない」状況に理解を示してくれたりします。
最後は唯が食べられるようになるわけではないのですが、少しずつ前進していることが分かる終わり方でした。

私は持病の関係で食事制限があります。
私の場合は病気が理由ですが、いかなる理由でも「食べられない」という状況は社会生活において大なり小なり影響を及ぼします。
私は自分の病気をオープンにしているので会食なども事情を話して食べられるものだけを選んで食べていますし、周りも理解してくれていますが、私のようにオープンにできる人ばかりではありません。
誰にも言えず、「食べられない」という状況を抱えて生きていくことはとても大変です。
「同じ釜の飯を食う」という言葉があったり、食事を共にすることで絆を深めたり、「おいしい物を食べて幸せな気分になる」と一般的に言われたりします。
「食べる=幸せ」というイメージが世の中には浸透していますが、「食べられない」人たちにとって食べることは苦痛であり、なかなかそのことはわかってもらえないよなーとこの本を読んで改めて思いました。
食べることは人間の根本欲求のひとつなので、なおさら難しい。
そんなことをいろいろ考えさせられる本でした。
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