車の自動運転社会の問題点を考えさせられる本-「サーキット・スイッチャー」安野貴博

小説

出版日:2024年4月5日

ページ数:336ページ

ここ数年で車の自動運転機能が格段に進化しました。

車の自動運転というと、なんだか良いことづくめのことしか話に聞きませんが、この本では自動運転車の問題点、それによって引き起こされるであろう社会問題に鋭く切り込んでいます。

小説だけど、小説を超える問題提起がなされている本でした。

舞台は2029年の日本。完全自動運転が普及した社会が舞台です。

今現在の日本では公道を走る(人を乗せた)自動車に関しては部分的な自動運転に留まっていますが、この小説では人が運転を行わない、完全自動運転がメインの社会になっています。

この小説は先日、東京都知事選に出馬した安野貴博氏が書いたもの。

ソフトウエアエンジニアである安野氏だからこそ、書くことができた小説だと思いました。

完全自動運転が浸透している日本で、自動運転アルゴリズムを開発する企業の若き代表である坂本氏が乗った車(もちろん自動運転車)がカージャックされてしまいます。

カージャック犯は坂本社長を拘束した状況や犯人の要求を動画で全世界に同時配信しながら、拘束を続けます。

坂本氏は天才的エンジニアとして有名な人物ですが、カージャック犯も高いIT知識と技能を持っています。

カージャック犯は坂本氏の自動運転車に爆弾を取り付けていて、条件を満たすと自動的に爆発するようになっています。

身代金の要求なし、犯人の坂本氏の狙いがいまいちわかりません。

しかし、ストーリーが進んでいくにしたがって、坂本氏は自動運転車の事故による犠牲者遺族であることが分かります。

なぜその事故は引き起こされたのか、誰が悪かったのか、どうしてそういう結末を迎えたのか。

それらがだんだんわかるにつれて、自動運転社会が引き起こす問題点を考えさせられました。

この本は小説だけど小説じゃない。私たちの近い未来に確実に関係してくる問題を提起している凄い本でした。

自動運転は良いことづくめのようなイメージしかなかったけど、その自動運転に関わるアルゴリズムを誰かが悪意を持って(またはその誰かにとって都合が良くなるように)改ざんしたり、その改ざんされたアルゴリズムによって人が選別されたりすることの恐ろしさを感じました。

また、事故が起きた時に誰が責任を取るのか、人が運転していない以上、自動車メーカーに責任があるのか、アルゴリズムを開発した会社に責任があるのか、責任の所在が非常にあいまいだと思いました。

これは遠い未来の話ではなく、すぐそこにある自分たちの現実なのだと思い、背筋が凍る感覚になりました。

これからの未来の自動運転社会を考える上でも、一読の価値ありです。

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