発売日:2022年9月14日
ページ数:563ページ
統合失調症という病気は「発症したら一生精神病院に入院しなければならない」と思われていた病気です。
今でも何十年にも渡って入院している方もいますが、効果的な向精神病薬が出てきたことにより、最近は通院しながら社会生活を営むことができる方が多くなってきました。
私が社会人入学で大学に入り直し臨床心理学を学んだ時は、統合失調症患者に対する心理セラピーのことはあまり取り上げられませんでした。
その当時は統合失調症患者に対しては投薬が一番効果的で心理セラピーはあまり効果がないと思われていたようです。
統合失調症は遺伝か生育環境のどちらが発症原因なのかという議論は長い間行われています。
その議論や統合失調症の遺伝について、ある家族の壮大な歴史をもとに遺伝研究が行われてきたことが書かれたのが、この本です。
この本はノンフィクションで、すべて事実だそうです。
1899年にドイツで「早期痴呆」として初めて統合失調症が発見されました。
発見から120年も経っているのに、未だに原因も完治するための治療薬も見つかっていません。
これはアルツハイマー型認知症と同じで(アルツハイマー型認知症は特殊な脳内のたんぱく質が原因というのは判明しています)、発見から100年以上が経ってこれだけ医学も科学も発展しても、完治に至る薬がありません。
(アルツハイマー型認知症に関しては軽度の人に対して進行を遅らせるための薬はありますが完治しません。統合失調症に関しても症状を緩和させる向精神病薬はありますが完治はしません。)
統合失調症は昔から「遺伝が原因か、生育環境が原因か」と議論を繰り返してきました。
脳の器質障害であることはわかっているけれど、原因が遺伝だとも生育環境だとも言い切れず、未だに議論がされています。
ただ、統合失調症は同じ家族(親族)内に患者が何人かいることがあり、親から子への直系遺伝だけでなく、遠い親戚に患者がいる場合の間接遺伝の可能性もあると考えられてきました。
この本では12人の子供を持つ家庭で6人の子供が統合失調症を発症したケースについて事実をもとに詳細が語られています。
6人の統合失調症の兄弟がいる特殊な環境で、健康な他の6人の兄弟は多大な犠牲を払わされたり、日常的に虐待の危険にさらされたりしてきたことが詳細に書かれています。
12人兄弟というだけでも特殊な環境なのに、そのうち半分の6人が統合失調症という精神病患者なのだから、親も他の兄弟も混乱の最中で生活を続けてきたことが容易に想像できます。
今でも統合失調症患者に対する偏見は世の中にありますが、1950-1980年代などは特に今よりも強い偏見があったので、その中での生活はさらに厳しいものだったでしょう。
同じ家族内に複数の患者がいる多発家系の家族について遺伝医学の観点から様々な検査を行ってきましたが、結局は統合失調症の原因になる特定の遺伝子を見つけることは未だにできていません。
ただ、この本に書かれているギャルヴィン家のような多発家系は珍しいし、12人中6人が発症し、残り6人が発症しなかった理由はなんなのか、親、子、孫、親族まで範囲を広げての遺伝検査を行うという特殊なケースについて細かく書かれていて興味深く読みました。
この本のモデルになったギャルヴィン家の何人かは今も存命しており、発症しなかった兄弟のうち何人かは家庭を持っています。
その子供や孫の代まで遺伝の調査を今も続けていることに非常に壮大なスケールを感じました。
遺伝にまつわると思われる病気を調べていくには何世代にも渡っての調査が必要で、これが最終的に病気の根絶につながるといいなあと思いました。
どの病気でも大変だけど、脳器質に関わる精神病(場合によっては一家族に複数の患者が発生する遺伝病)という特殊なケースの場合は、家庭生活も治療もままならないことが多く、本当に大変なことだとこの本を読んでつくづく思いました。
遺伝に関する研究が進んで少しでも多くの患者さんが救われるといいなと思いました。
コメント