NHK朝ドラ「虎に翼」で描かれた家庭裁判所の設立について良く分かる本-「家庭裁判所物語」清水聡

ノンフィクション

発売日:2018年9月21日

ページ数:180ページ

みなさんは家庭裁判所に行ったことはありますか?

私はあります。

成年後見人制度について知りたいと思い、家庭裁判所に制度に関する資料を貰いにいきました。

今は成年後見人に関する本もたくさん出版されていますが、当時はまだそういう本も少なく、家庭裁判所に直接出向いて相談するのが一番確実な方法でした。

その時が人生初の家庭裁判所訪問だったのですが、日常生活で裁判所と関わることはなかったのでとても緊張しました。

が、「成年後見人制度について知りたい」と伝えると、非常に親切に対応してくださいました。

今回、NHK朝ドラ「虎に翼」で主人公のモデルになった三淵嘉子氏が家庭裁判所設立に関わっていたことを初めて知りました。

三淵氏の当時の上司で「家庭裁判所の父」と呼ばれた宇多川潤四郎氏について、ドラマを見て興味を持ったのでこの本を読んでみました。

朝ドラでは宇多川氏の人物像がかなり「個性的でユニークなおっさん」として描かれていたのですが、私は「これはドラマだから大げさに描いているだけだろう。。。」と思っていました。

が、この本を読むと実際に宇多川氏は教育熱心で愛情深く、家庭裁判所設立に多大な情熱を注いだドラマ通りの人物だったようです。

敗戦国となった日本では戦後、多数の戦災孤児をどのように保護していくかが課題になりました。

戦争で親を失った子どもというと、空襲で親が死んでしまったり戦地に出征した亡くなったというイメージが強かったのですが、疎開中に親を戦火で亡くした子供が東京に戻ってきて行き場をなくすというケースも多々あったことをこの本で初めて知りました。

戦後、少年法が新しくなったことに伴い、GHQからの指示で日本はそれまであった「家事部」(相続や離婚等を扱う)と「少年部」(少年犯罪を扱う)を統合した形の家庭裁判所を設立することになります。

戦後の焼け野原に家庭裁判所の建物を建てることは難しく、当初は弁護士会や地方裁判所に間借りしたり、さまざまな方法で新少年法の施行に合わせて開設します。

裁判官や書記官、調査官などの人員の不足もあり、当初は混乱状態が続いてようです。

戦後という時代背景もあり、当初、家庭裁判所は犯罪(と言っても飢えを凌ぐための盗みやちょっとした喧嘩など)を犯した少年たちの保護と更生を重点的に取り扱ってきました。

そのため、裁判所としては珍しく、福祉事務所や保護施設、教育や心理学の専門家などと連携して「犯罪を犯してしまったが、いかに更生させて幸せに少年少女が生きていけるようにするか」を目的にしていました。

現代でも家庭裁判所が地方裁判所と異なり親しみやすいというか、誰にでも開かれた裁判所であることを考えると、設立当初の人々に寄り添って家庭問題や少年犯罪を取り扱っていくという姿勢が伺えます。

ただ、戦後の貧しい時代から立ち直り、世の中が豊かになるにつれ、少年犯罪の凶悪化が社会で問題になっていきます。

少年によるあまりにも凶悪な犯罪が続いたことにより、少年犯罪に対する厳罰化が求められるようになり、少年法の改正が行われます。

この本を読むと、家庭裁判所は少年少女を愛を持って導いていこう、少年少女が幸せになれるように助けようと心の底から思い活動していたのに、世の中が変わるにつれて少年少女の犯罪も凶悪化して裏切られていく過程が読み取れました。

仕方がないと言えばそうなのですが、愛情をベースにした裁判所がどんどんシビアな冷たい機関になっていく過程は、読んでいてとても寂しい気持ちになりました。

最後に東日本大震災で被災した仙台家庭裁判所の立て直しの話が書かれており、戦後の設立当初から様々な紆余曲折があったけれども、大災害時には行方不明の後見人を探したり、災害孤児に対する暖かな対応を行ったり、家庭裁判所の土台にあるポリシーは変わらないのだなと思わされるエピソードも載っていました。

朝ドラを見ていなければ、家庭裁判所についてや設立について関心を持つことはなかったと思います。

ドラマをきっかけに今回のように家庭裁判所について知ることができたのは、とても良かったと思います。

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