出版日:2023年9月26日
ページ数:312ページ
カルチャースクールの広告等で「小説の書き方教室」というものを良く見かけるようになりました。
「小説って、そんなに簡単に書けるものなの?」と常々疑問に思っていました。
カルチャースクールの講座説明を読むと、「この講座を受講すれば誰でも小説家を目指すことができます」と書かれています。
いやいや、そんなに簡単なもんじゃなかろうよ。
小説家のスランプの話も良く耳にするし。
私は小説家になりたいわけではありませんが、そんな疑問を払拭したくてこの本を読んでみました。
作家の花村萬月氏による小説家になるための指南書です。
といっても、小説を書くためのスキルやテクニックはほとんど書かれていません。
文学界の内情や小説家になるための心構え、小説家という職業の現実を毒舌を交えて書かれています。
「なーんだ、小説を書くためのテクニックが書いてあるわけじゃないのか」
と思うなかれ。
この本に書かれているのは小説家の厳しい現実ですが、それを知った上で本当に小説家になりたいのか、その厳しさに自分が耐えていけるのかということを考えるきっかけになります。
「文章は誰でも書けるから自分でも小説が書ける」とか「自分が書いた小説が売れたらお金もたくさん入ってきてちやほやされる」とか、そんな甘い考えて小説家を目指そうとする人はこの本をしっかり読んだほうがいいです。
この本を読んで「やっぱりそうだよな」と一番思ったのは、「売れる小説家というのはずっと虚構の世界を生み出し続けられる人」と書いてあった部分です。
小説とは「虚構の世界」「作り話」です。
自分の中にオリジナルのアイディアをたくさん持っていないと、虚構の世界を生み出し続けていくことなんてできません。
その虚構の世界はつじつまが合っていなければなりません。
小説の最初と最後で全くつじつまが合わないようでは小説として成り立たないからです。
これ、素人にはなかなか難しいなと思いました。
長編になればなるほど、登場人物や話の展開に矛盾が生じやすいからです。
プロの小説家は「虚構の世界の整合性(矛盾がないこと)」を突き詰めて書いているそうです。
花村氏ご自身も30年間以上小説家としてたくさんの本を出していますし、東野圭吾氏のように次々と作品を世に出している方はやはりたくさんのストックをすでに作っているのだなと思いました。
また、いくらオリジナルのアイディアが山のようにあっても、それを文章化できる技量がなければ小説家にはなれません。
「努力すれば小説家になれる」というよりも、独自のアイディアの泉を持っていること、それを文章化できる技量があることは適性や才能、センスなどが問われると書いてありました。
「小説を書く」というのは、孤独な作業であること、机に座ってずっと書き続ける体力と精神力が必要であることも指摘されていて、「そうだよなあ」とつくづく思いました。
文章テクニックを指南する本は世の中にたくさんありますが、小説家に必要な基本的な要素をここまでさらけ出して書いている本はなかなかないと思います。
小説家を目指したい方は一読すべき本だなと思いました。
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