障がい者のリアルが書かれた本-「ハンチバック」市川沙央

小説
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発売日:2023年6月22日

ページ数:96ページ

タイトルの「ハンチバック」とは、せむし(猫背)や側弯症のことを指します。

この小説の主人公は筋疾患ミオパチーの患者で、筋力が弱いことにより背骨が大きく湾曲しています。

背骨が大きく曲がっていることにより肺が圧迫され、筋力が衰えていくことによって呼吸が困難になるため、この小説の主人公も人工呼吸器や電動車椅子を使って生活しています。

主人公は重度障がい者で、両親が創設したグループホームで生活しています。

障がい者や病気の人を扱った小説は、どちらかというと「感動もの」になりがちです。

障がい者や病人は「妬み辛みもなく、エロもなく、清らかで聖人のよう」に描かれることが多いのですが、この小説は真逆です。

障がい者のリアルな感情の一部を赤裸々に描いていました。

主人公の井沢釈華は先天性の筋疾患ミオパチーによる側弯症で、重度障がい者です。

人工呼吸器と電動車椅子を使い、裕福な両親が設立したグループホームの一室で生活しています。

両親が残してくれた莫大な遺産や家賃収入によって、経済的な不安はありません。

重度障がい者ではありますが、自分でトイレに行くことができたり、痰の吸引も自分で行います。

そんな釈華は40歳で有名私大の通信コースに在籍する大学生であり、エロwebライターでもあります。

子供の頃から重度の障がいがあるため、エロライターとはいえ、実際の体験したり取材したりはできません。

ネットで素材やネタを集めて書く「こたつ記事」のライターです。

障がい者、特に重度障がい者というと、一般的に何もできない、または指定された作業所などで簡単な作業をしてお金を得るというイメージがあります。

しかし、釈華はエロ分野でのwebライターをしています。

これは世間一般のイメージとはかけ離れているし、釈華は「健康な女性のように子供を産んで育てることはできないから、妊娠して中絶することをやってみたい」という願望を持ちます。

生殖機能は正常な彼女にとって妊娠は可能であり、でも側弯症の状態から出産は無理である。

不謹慎かもしれませんが、そんな彼女がやれる最大のことが「妊娠と中絶」だと考えます。

重度の障がい者が結婚や妊娠、出産を望むと周囲から反対されることがほとんどです。

だから必然的に重度障がい者はそれらのことをあきらめざるを得ないし、エロは障がい者から遠い存在だと思われています。

そこを正面から扱った小説で、障がい者でもエロは求めるし、そういう気持ちもあるということをリアルに描いている小説でした。

著者の市川沙央さんご自身も筋疾患先天性ミオパチーによる側弯症を患い、人工呼吸器と電動車椅子で生活しています。

著者自身が重度障がい者なので、側弯症で呼吸や姿勢が苦しいこと、肺が押しつぶされる状態、痰の吸引の様子など、とてもリアルに書かれています。

この小説のキーワードのひとつである「エロ」も障がい者にとってエロは存在しないのではなく、障がい者にとってもエロい気持ちもエロもあるということをリアルに描いています。

これは著者自身が障がい者だからという点が大きいと思います。

健常者が勝手に想像した障がい者の状態ではなく、体が不自由であっても思考は健常者と同じで自由であることを改めて知らされる小説でした。

障がい者のリアルの一面を痛いほどに突き付けられる小説でした。

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