発売日:2022年7月25日
ページ数:297ページ
数年前に福島県に行きました。
その際大きめの書店に行ったところ、一角に小さくこの本を紹介してるコーナーがありました。
福島県郡山市在住の著者がライトノベル部門で大賞を受賞し、出版された本だと紹介されていました。
物語の舞台も福島県。
福島県出身のライトノベル作家がいることを知らなかったので、興味を持ち読んでみました。
私は今までのライトノベル文体が読みづらくて、苦手意識がありました。
しかし、この本はラノベというよりまさに「小説」でした。
ラノベに対する固定観念をひっくり返してくれた作品でした。
この本はライトノベル独特の文体がほとんどなく、一般的な小説と同じ文体で書かれているため、非常に読みやすい本でした。
舞台は福島県の郡山市がメインですが、他の地名も出てきますし、甲子園で活躍した聖光学院高校の名前も出てきます。
イタリアやポーランドも舞台になります。
主人公とその幼馴染が小学校3年生の時から物語が始まります。
主人公八雲の母親は、全身が塩になり1年以内に死んでしまう奇病「塩化病」に侵されています。
母親の病状が進行していき、亡くなるところから話が始まります。
同じ小学校でたまたま知り合った揺月は9歳にしてすでに国際的なピアノコンクールで多くの賞を受賞している天才。
二人とも家庭環境が複雑なのですがすぐに仲良くなり、様々な経験やいろいろな事情でそれぞれが大人になっていきます。
物語の途中で東日本大震災の話も出てきますが、被災自体よりも風評被害の傷について書かれているのが印象的でした。
揺月はイタリアに留学し、ピアノの技術を高めていき、ショパン国際コンクールでファイナリストに残るところまでいきます。
先日、反田恭平氏の「終止符のない人生」でショパン国際コンクールのことが詳しく書かれており、その次に読んだこの本も物語全部に渡ってショパンの曲やコンクールのことが書かれていて、なんだか鳥肌が立ちました。
ネタバレになってしまいますが、揺月はショパン国際コンクールのファイナル演奏途中で塩化病を発症。
病気が進行していく中で、ポーランドの機械義手技術者から素晴らしい義手を贈られ、またピアノを一時的に弾くようになったり、八雲と結婚したりという展開があります。
最後は揺月も塩化病で亡くなってしまうのですが、残された八雲が悲しみと絶望の沼から立ち上がるところで物語は終わります。
非常に良くできた物語で、一気に読んでしまいました。
文章のテンポもストーリー展開も非常に上手く、ライトノベル独特の読みづらさは一切なく、ライトノベルカテゴリーで括ってしまうのはもったいないなと思いました。
多少盛りだくさんな気もしますが、深刻なテーマも多いのにあまり重い感じになっていないのは著者の才能のすばらしさだなと思いました。
正直、ライトノベルカテゴリーの本だったので、そんなに期待していませんでした。
が、予想を裏切り、とても素晴らしい本でした。
著者の次回作がとても楽しみになりました。
この本は図書館で借りましたが、購入しようと思っています。
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