歴史物に興味を持つきっかけになった本-「平家物語 犬王の巻」古川日出男

小説

発売日:2021年12月21日

ページ数:216ページ

歴史小説や歴史に関する本が苦手です。

時代背景や登場人物に感情移入ができないのです。

なので、今までほとんど歴史ものは読まずにきました。

先日たまたま「犬王」というアニメーション映画の予告編動画を見たところ、ロックバンド「女王蜂」のアヴちゃんと舞踏家の森山未来氏が声を担当していることを知りました。

この2人の共演にとても興味を惹かれました。

そんな中、この映画がゴールデングローブ賞アニメ映画賞にノミネートされたことも知りました。

受賞は逃しましたが、ノミネートされたことを知りどんな作品なのか知りたくなりました。

急にこの映画に興味が湧いてきた私は、早速原作を読んでみました。

「犬王」というタイトルしかわからなかったので、まさかこれが「平家物語」に関わる室町時代に実在の猿楽能の名手のことだと原作を読んで初めて知りました。

この物語の主人公は2人の少年です。

ひとりは盲目の琵琶法師、友魚。もうひとりが犬王。

ふたりは全く別々の場所に生まれ育ちますが、それぞれが不幸な生い立ちを背負っています。

友魚は海部の家系で都からやってきた人の依頼で父親と共に壇ノ浦に潜ります。

平家の神器を引き上げ、それを目にした父親は死に友魚は失明します。

その後、友魚は旅に出て途中で知り合った琵琶法師の弟子になります。

自分が失明した原因の神器が平家のものであることを知った友魚は、琵琶法師になり平家の物語をすべて知ろうとします。

一方、犬王は京の近江猿楽の家系に生まれます。

犬王の父親は比叡座の棟梁ですが、野望に取りつかれ異術を得るために、まだ母親のお腹の中にいた犬王を生贄としてささげます。

死産させるのではなく、犬王の頭の先から足の先まで異形(奇形)で生まれさせ、そのまま生かしておくことを異術の主と約束します。

犬王は相当な奇形で生まれたため、頭から足の先まで布で包まれ、顔は能楽で使う仮面をつけて幼少期を過ごします。

(犬王が異形で生まれ育ったという部分はフィクションです)

犬王は存在を隠されて育てられますが、兄たちの能楽の稽古を隠れ見ながら能楽の技術を身に着けていきます。

能楽の才能が開くにつれて異形の体は足から少しずつ普通の体に戻っていきます。

これは能楽の美を身に着けることによって、犬王の父親に殺された琵琶法師たちの呪いや怨霊が成仏し、それによって異形が治っていくのです。

友魚と犬王は出会い、ふたりで犬王の運命を題材にした新しい平家物語を作っていきます。

この新作は大衆や貴族に大人気となります。

しかし、その後、足利義満により「正統な」平家物語以外は禁じられ、そのことに絶望した友魚は死んでしまいます。

犬王は足利義満の寵愛を受け、生涯活躍していきます。

犬王は当時人気の観阿弥、世阿弥と人気を二分し、お互いを認め合うライバル同士となって活躍します。

(観阿弥、世阿弥については歴史の教科書でご存じだと思います。)

犬王は亡くなる際に成仏できない友魚を「朋だから」一緒に黄泉の国に連れていくという場面で終わります。

琵琶法師友魚は実在ではないと思われますが、友魚と犬王の才能と友情と共に琵琶語りや能楽の華やかさが読むだけで伝わってきます。

これは著者の古川日出男氏の文章力のすばらしさで、躍動感あふれる素晴らしい表現が続きます。

非常に読みやすくスピード感があるため、あっという間に読み終わりました。

しかも、とても面白かった。

文章の躍動感、表現力のすばらしさがとても感銘を受けたので、古川氏の他の本も読んでみようと思いました。

「歴史ものは苦手」という方にはぜひ読んで頂きたい本です。

苦手なジャンルへの一歩を踏み出すきっかけに最適の本でした。

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