人間も自然の生態系の一部であることを改めて理解できる本-「未知なる人体への旅」ジョナサン・ライスマン

ノンフィクション

出版日:2022年11月29日

ページ数:344ページ

私は生まれつき持病があり、子供の頃は手術と入退院の繰り返しでした。

そのためか、医学書や医療に関する本を読むことが多く、今までたくさんの本を読んできました。

そのほとんどが医師が書いた本なのですが、「医学」という観点から体のことを書いた本が圧倒的に多いです。

この本も現役医師が書いた本です。

しかし、この本の著者は医師になる前に様々な国を旅し、自然の生態系に対する深い知識を持ち合わせています。

自然と人体、医学を結び付けて説明している本で、とても興味深く読みました。

最初にこの本は表紙の装丁がとても美しいです。

内臓をモチーフにしていると思われるのですが、まるで花のようです。

この装丁からも人体と自然が密接に関連していることを表したいのだろうなと思いました。

この本ではすべての臓器について書いてあるわけではないのですが、15の章でさまざまな臓器について独自の視点と医師としての経験などを踏まえて分かりやすく書いてあります。

この本ではさまざまな病気の症例と共に説明がされているのですが、全体を読んで一番思ったのは

「人間は自然の一部である」

ということでした。

血液も尿も流れが詰まってしまうと大きな病気になってしまいます。

体の中を流れている血液や老廃物を出す役割がある尿、その他の体液がよどみなく川のように流れていくことが健康の証であり、それはまるで自然のようです。

また、人間の体は60%以上が水分であると言われていますが、その水分は真水ではなく海水に近い塩分濃度なのです。

だから、真水だけをひたすら取り続けても、電解質バランスが崩れて体調を崩したり、深刻な状況になりかねない。

この現象を見ても、人体は自然と密接に関係していると思いました。

臓器に関する医学的なことだけでなく、さまざまな話が書かれているのですが、その中でも2つ印象的なエピソードがありました。

ひとつはアメリカの形成外科では今でも「医療用ヒル」による治療が行われていること。

血液過多の治療をするために今でも大きな病院の一部では医療用ヒルを薬剤部で管理していて、それを使っているそうです。

ヒルが血液を吸う生物であることは知っていますが、それを今でも医療に活用していることに驚きました。

また、ヒルの唾液には血液が固まるのを防ぐ抗凝固因子があり、それを活用して血栓を防ぐ薬が開発されたことも、この本を読んで初めて知りました。

もうひとつは、誤嚥に関するエピソードです。

日本でも高齢者の誤嚥がよく取り上げられますが、誤嚥というと良くないイメージが付きまといます。

年を取ればだれでも飲み込む力が弱くなり誤嚥が起きることは珍しいことではないし、若い時でも誤嚥して咳き込むことは誰にでもあります。

高齢者の誤嚥は肺炎につながることが多いため、誤嚥する回数が増えると胃に穴をあけて液状の食事を流し込む「胃ろう」を提案されることもあります。

悪いイメージが多い誤嚥ですが、この著者は

(誤嚥は)肉体が”生から抜け出す”ひとつの方法であると考えるようになった。

誤嚥性肺炎は「老人の友」と呼ばれていた。加齢と共に病気に長く苦しんだ人に、威厳のある死をもたらすからだ。

「未知なる人体への旅」第一章「喉」より

と書いています。

私は3年前に母を誤嚥性肺炎で亡くしましたが、これを読んでなんだか救われた気がしました。

母は高齢で長く病気を患っていましたが、誤嚥を繰り返していました。

このセンテンスを読んで、誤嚥は母が病気の苦しみから抜け出すひとつの方法だったのかもしれないなと思いました。

今までの医学書や医師による本とは視点が違っていて、とても興味深い本でした。

健康になることは非常に大事なことですが、それだけにフォーカスするのではなく、人体が自然の生態系の一部であり、いかにバランスよく生きるかが重要であることを示唆する本です。

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