出版日:2004年12月1日
ページ数:267ページ
数週間前、ふと「最近、シャム双生児(結合双生児)の話って、めっきり聞かないな」と思いました。
私が子供の頃はベトナム戦争の枯葉剤等の影響で奇形児や結合双生児が多く生まれたという話をよく聞きました。
日本では「ベトちゃんドクちゃん」と呼ばれていた結合双生児の特集番組やニュースがよく話題になっていました。
結合双生児の分離手術が行われると、それが世界的なニュースとして取り上げられました。
結構耳にしていたはずの結合双生児の話。
以前よりは出生率が下がったというのもあるのでしょうが、分離手術を受けたにせよ、受けないにせよ、今でも生きてる結合双生児はいるはずです。
結合双生児についてなんにも知らないなあと思い、この本を読みました。
この本を読んでとても驚いたのは、結合双生児のほとんどが分離手術を望んでいないということでした。
分離せずにずっと結合したままでいい、このままでいるほうが幸せと思っているのだそうです。
結合しているのは病気でも障害でもなく、「個性」だと捉えていることに驚きました。
片方が死亡してしまい、緊急に分離手術を行わないと、生きてるもう片方の命が危ない場合を除いては、自分から分離手術を望んだのは一例しかないとのこと。
緊急性を伴わないほとんどの分離手術は、まだ物心がつかない幼いうち(3歳くらいまで)に親や医者の判断で行われているとのことでした。
結合双生児は自分の体にもう一人の兄弟姉妹の体がくっついていてとても不自由だろうし、プライバシーもなくて嫌だろうなと私たちは勝手に思ってしまいます。
しかし、本人たちは一緒にいるほうが幸せと感じています。
分離手術中にどちらかを犠牲にしてしまうこともあるし、分離したことによって重篤な後遺症や障害が生じて、むしろ分離しないほうがよかったのではないかという状態になってしまうこともあるそうです。
今までずっと分離手術成功のニュースを「うまくいってよかったなあ」なんて思っていたけど、実際は違うんだということをまざまざと突き付けられる本でした。
自分たちが正しいと思っていること(結合双生児は分離したほうが幸せ)が必ずしも正しいとは限らず、当人たちにとっては「今のままが幸せ」だということもあるんだなと思いました。
結合双生児の出生率は近年は減っているそうです。
出生前診断によって重篤な結合がある場合などは中絶する人が多いからです。
それでも一定数の結合双生児が海外で生まれていて、そのほとんどは厳格なカソリック教徒の家庭か途上国での出生だそうです。
この本では結合双生児の話だけではなく、インターセックス(生まれつき男性器と女性器が両方ついているなどの性別未分化の人)のことも書かれており、結合双生児とインターセックスの子供は生まれた時〜3歳くらいまでのまだ自分で判断ができない時期に「正常化手術」を受けることがほとんどだそうです。
今は医療技術が発展して分離手術や性別を確定させるための手術もできてしまいますが、特別な体で生まれてきた子供を「正常化」するために手術するというのは、ある意味、人間の傲慢さの表れのようにも感じました。
社会がそういう特別な体を持って生まれた子供を受け入れないというのが一番の問題であって、そういう体で生まれてきたこと自体は健康上特に問題がないのであれば、そのままでも良いのではないかと思いました。
いろいろな意味で、自分が持っている価値観が本当に正しいのかどうかを考えさせられる本でした。
日本では結合双生児の症例はほとんどなく、小人症や腕が3本あるなどの奇形の症例はそれなりにあるそうです。
海外と日本の例を考えてみても、結合双生児の確率が日本では低いのは何か理由があるのかなと思いました。
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