ロシア軍事専門家が語るロシアの素顔、一般人の生活が分かる本-「ロシア点描」 小泉悠

エッセイ

発売日:2022年4月19日

ページ数:192ページ

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、東京大学先端科学技術センターの小泉悠先生をテレビで拝見することが多くなりました。

この本の著者の小泉悠氏はロシア軍事の専門家です。

小泉氏は軍事に関する著書も出しておりますが、この本ではご自身がロシアに留学なさっていた頃の普通の生活を紹介なさっています。

軍事専門家の視点から見たロシアの普通の生活がどういうものなのか、非常に興味があり読んでみました。

この本では人々、住まい、地下空間、食生活など、それぞれのテーマについて書かれています。

著者の小泉氏自身もモスクワに暮らしていた経験がありますし、奥様はロシア人です。

小泉氏が暮らして感じたことや、ロシア人の生活全般を通してどうしてプーチンのような大統領が選ばれてしまうのか、その背景が分かってきます。

この本で特に興味深かったのは、住居と地下空間に関することでした。

テレビでロシアからの中継(主にモスクワ)を見ていると、高層マンションがいくつも立ち並んでいる場面を見ることがあります。

ロシアの住宅事情はコムナルカと呼ばれる富豪の家を没収し、共同住宅に変えたもの(キッチンやお風呂などは共同なのでプライバシーがない)→スターリンカという大通りに面した重厚で巨大なアパート→フルシチョフカという現在の個別マンションのような形態の住宅→プーチンカと呼ばれる現代のタワマンのような高層住宅というように移り変わっており、テレビなどで見る高層住宅はプーチンカではないかと思います。

ロシアは社会主義国ですから一部の富豪を除いで私邸を建てることは許されていません。

地方は別でしょうが、都市部では国が作った集合住宅に入居するのが一般的で、今でも非常に古いコムナルカなども存在しているそうです。

国が大量に集合住宅を作って国民に提供するという形なので、国民が住みやすい造りというよりは国にとって都合の良い造りの集合住宅が多いようです。

また、モスクワでは地下鉄の駅がかなりの深さの地下に作られていて、プラットホームが核シェルターを兼ねているのは有名な話ですが、その他にもたくさんの地下施設があると言われています。

その多くは軍事的な施設だったり政府組織の施設だったりするので、地下に何かあるのはわかっていてもロシア人でさえはっきりしたことはわからないそうです。

その近辺の写真を撮ろうとすると取り締まりを受けたりもするので、離れた場所からさらっと眺めるくらいにしておいたほうがいいと書かれていました。

やはりロシアはまだまだ謎の多い国で、日本にいる時のような気軽な行動(写真を取ったり分からない施設に近寄ったり)は慎まないといけないんだなあと思いました。

なかなかここまで順序だてて近年のロシア社会のことを説明している本はないので、興味深く読むことができました。

ロシア人は「強いリーダー」を望む国民であるため、プーチンのような強硬な指導者を選んだのは必然であったこと、プーチンが権力欲に取りつかれてしまい、予測不能な方向に突き進んでしまっていることなども、最後の章では書かれていました。

ロシア人の気質、生活状況、食生活など、ロシア人を理解するためのバックグラウンドが分かりやすく書かれていて、興味深く読みました。

写真も多く載せられていて、ロシアの一部を垣間見ることができます。

この本を読んでロシアに興味を持つきっかけになりましたが、ウクライナ侵攻が未だに続いていることを考えるとロシアに行くことは難しいだろうなあと思いました。

軍事評論家らしく地下の国家施設について触れられていたのが、非常に興味深かったです。

近年のロシアや一般のロシア人の生活について知りたい方にはとても良い本だと思います。

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