人形と人間の間には特別な感情が入り込む関係があると気づく本-「人形と人間のあいだ」菊池浩平

出版日:2022年9月24日

ページ数:185ページ

私にとってぬいぐるみは家族です。

生まれつき持病がある私は生まれてすぐに大手術を受け、子供の頃は入退院の繰り返しでした。

小さい子供だからということもあったと思いますが、インフォームドコンセントはないし、治療については親と医師が決め、当日に「今日は〇〇やるねー」という具合で知らされました。

注射くらいの治療ならいいのですが、いきなり切開手術や痛みを伴う検査をすることもありました。

医師も看護師さんたちも親も、私を治して元気にするためにいろいろやってくれている。

親は毎日面会に来てくれる。

子供ながらに親や医師に心配をかけたり、痛い辛いと不平不満を言うのは申し訳ないと思い、治療や検査がいくら辛くても泣き言ひとつ言いませんでした。

その代わり、入院生活中は毎日ぬいぐるみに話を聞いてもらっていました。

「今日はこんなに痛い検査をやったんだよ」「明日も痛いのやるのかな。やだな」など、辛い気持ちを聞いてもらっていました。

ぬいぐるみにはずいぶん助けられました。

この本はNHKのラジオ番組「こころをよむ」のテキストです。

さまざまな人形について語られていますが、人形の定義はとても広いです。

日本人形やフランス人形、テレビの人形劇、ぬいぐるみ、リカちゃん人形だけにとどまらず、初音ミクやアバター、ラブドール、アンドロイドまでを「人形」の定義に含めて論じています。

単なる物体やパソコン上の映像、等身大の機械という「物体」であるにも関わらず、人は人形にさまざまな感情を抱いたり、投影して、その「人形」たちと特別な感情を結んでいきます。

この本では13章まであり、それぞれの人形について様々な考察がされているのですが、私が特に興味深く読んだのは、やはり「ぬいぐるみ」の章でした。

「大人たちはぬいぐるみを捨てるべきか」というタイトルで書かれていますが、なぜか日本では「大人になったらぬいぐるみは捨てるべき」という論調があります。

海外でも日本でも高級ぬいぐるみのコレクターは一定の認知をされていますが、普通のぬいぐるみは大人が持っていると「そんな子供っぽいものを持って・・・」と批判されることがあります。

「大人になってもぬいぐるみを持ってるのはおかしい」という価値観が世の中にあるため、ぬいぐるみを捨ててしまって後悔している人もいるようです。

この本でも書かれていますし、私自身も思っていますが、大人になったからと言ってぬいぐるみを捨てる必要はないと思います。

ぬいぐるみをかわいがっていると生命的なものが宿っているように感じられます。

(私はそれを「魂が入った」と言っています。)

ぬいぐるみをかわいがっていると、ある時から命を感じられるようになるのに、自分が大人になったからと言って無理に捨てる必要はないと思うのです。

私が子供の頃に入院中、ぬいぐるみによって心のバランスを保っていたように、大人にとってもかわいがっているぬいぐるみは特別な存在で、精神のバランスを保つ支えになるはずです。

「大人になったんだからぬいぐるみは捨てなければいけない」というのは誤解ですし、そのことを多角的に考えさせてくれました。

ぬいぐるみに限らず、この本で取り上げられている初音ミクやアバターなどの仮想空間でのキャラクターや、アンドロイドなどの「機械」との間にも特別な関係を築くことはあると思います。

単なる物体ではなく、「人形」と言われている物体と人間との間には感情のやりとりがあり、単なる「物体」として割り切れないものが築かれていくことを改めて知る本になりました。

コメント

タイトルとURLをコピーしました