出版日:2022年11月29日
ページ数:216ページ
本のタイトルになっている「行旅死亡人」とは
病気や行き倒れ、自殺等で亡くなり、名前や住所など身元が判明せず、
引き取り人不明の死者を表す法律用語
「ある行旅死亡人の物語」より
だそうです。私はこの本で初めて知りました。
もともとは「旅の途中で行き倒れた人」を意味していたようです。
昔から孤独死する人は一定数いたと思うのですが、最近はその数が増え、話題になることも多くなりました。
「私は家族がいるから大丈夫!」なんて言えません。
孤独死は誰にでも起こりうる可能性がある問題だと思っています。
この本は共同通信社の記者2名が、とある行旅死亡人の公告記事を目にしたことから始まります。
「行旅死亡人データベース」というものがあり、たまたまそのデータベースで見つけた1件の公告記事が目に留まります。
「2020年4月に尼崎市で亡くなった75歳くらいの女性。本籍、住所、氏名不明。身長133cm、右手全指欠損、現金約3400万円が自宅に残されていた」
という記事だったそうです。
身元不明の死体なのだから、本籍、住所、氏名が分からないのは特におかしいとは思わないのですが、右手の全指がないのと自宅に現金約3400万円が残っていたことが、著者にはひっかかったようです。
相続財産管理人に任命されている弁護士に連絡を取り、自宅に残されていた遺品等の写真などを見せてもらい、そこから「この人は誰なのか?」という疑問に背中を押されて調査を始めます。
すでにこの段階で警察も入念に調べていますし、相続財産管理人である弁護士も探偵を雇って調査しています。
普通だったらそれで終了だと思うのですが、著者は亡くなった女性が多額の現金を自宅に保管していたこと、右手の指がないこと、年金を受け取っていなかったこと、労災保険(右手を仕事中に失ったことがのちに判明)を辞退していたことなどに疑問を抱きます。
また、亡くなった女性の部屋には30~40年大切にしていたと思われる犬のぬいぐるみがあったり、星のマークがあるロケットペンダントとその中に謎の数字列が記載された紙などがありました。
自宅に保管されていた印鑑が珍しい苗字だったことから、謎が深まったいきます。
確かに40年も住んでいたアパートの住人や大家が亡くなった女性の素性をほとんど知らないというのも不思議だなとは思いますが、誰とも関わりを持たない人というのは一定数いるので、特別おかしいとは私は思いませんでした。
著者が盛り上げたいと思って書いてるのか、「星マークのペンダントは北朝鮮の物ではないのか?亡くなった女性は北朝鮮工作員だったのでは?」とか、「多額の現金を自宅に置いておくのは工作員だったからか?」とか、陰謀論というかそういう怪しい方向に話を持っていこうとする場面が何度かあり、読んでいて白けてしまいました。
高齢者で多額の現金を自宅に置いておく人はそこそこいるし、星マークのペンダントに何かの数字が書いてあったとしても別に珍しいことではないと思うのです。
30-40年間大切にしてたぬいぐるみが自宅にあっても別におかしくはないでしょう。
私も何十年も大事にしているぬいぐるみが自宅にあります。私が高齢になって孤独死したら「高齢女性が古いぬいぐるみを自宅に持ってた」と訝しがられるのだろうか?と思ってしまいました。
結局、死亡していた女性の名前は年金手帳などから分かり、珍しい旧姓から彼女のルーツが広島県であることが分かります。
最終的には相続人が見つかり、遺骨の引き取りも相続手続きも行われます。
この本の著者が共同通信社の記者であり、元司法記者だったこともあり警察への問い合わせなども慣れていたということをで、調査は非常に綿密で素晴らしいと思いました。
が、先ほど書いたように「多額の現金が自宅にあったのは工作活動資金か?」とか「北朝鮮の工作員だったのではないか?」とか、発想が飛躍しすぎる部分が多々あり、その点は読んでいてうんざりしました。
いや、別にそこまで話を盛り上げなくても「行旅死亡人の身元を淡々と調べて、最終的に相続人も見つけました」でいいのでは?という感想しか出てきませんでした。
誰でも孤独死する可能性はあるので、身元が分からないとこういう末路を辿るよということと、身元を判明させるまでにはここまでの詳細の調査が必要で時間も手間もかかるということが良く分かるという点では非常に面白い本でした。
ただねえ、「北朝鮮工作員なのでは?」疑惑を引っ張るのはねえ。どうにもこうにもいただけないなあという印象でした。。。
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