東日本大震災を別の角度から考えるきっかけになる良書-「死者の力」 高橋原・堀江宗正

ノンフィクション

発売日:2021年9月14日

ページ数:348ページ

今年の3月で東日本大震災から14年が経ちました。

私は当時、福島県で被災しました。

震災直後に地割れやら家屋倒壊でボロボロになった町は今はすべて修復され、普通に生活が営まれています。

私は現在他県に住んでいるので、年1-2回程度福島県に行きます。

震災後になくなってしまったお店や引っ越してしまった友人などすべて元通りではないけれど、あまり災害があったことを感じることはありません。

原発事故に関してはまだやらなければならないことがたくさんありますが、それでもすべてが少しずつ前進しているように思います。

14年というのは、意外とあっという間だったなあと思います。

たまたまネットで見かけたこの本は、津波被災地の霊的体験を学術的にきちんと調査して、論文にまとめてあるという、極めて珍しく貴重な本でした。

東日本大震災の被災地では、「霊を見た」等の話はよく聞きましたが、おもしろおかしく語られる怪談話として取り上げられることがほとんどでした。

この本では、宗教学や心理学の観点から客観的に調査、学界でも発表されています。

冷静に分析されていてなかなか興味深い本でした。

調査対象になったのは宮城県と岩手県の津波被災地で、福島県は含まれていません。

福島県が調査対象に含まれなった理由として、津波被害の件数が宮城県岩手県より少なかったこと、津波被害だけでなく原発事故が起きたため、「震災被害のみ」の調査対象にするのが難しいことなどが挙げられていました。

(福島県の場合は、原発事故による風評被害のひとつとして「霊が出た」「放射能の影響で巨大になった虫(動物)を見た」などの突拍子もない噂がたくさんあったので、調査対象地域にしなかったのは賢明だと思います。)

この本の調査は被災者本人に対する調査と、被災地支援の一環として他地域から被災地に来た宗教者に対してのアンケートや聞き取り調査をしています。

すべて匿名で書かれており、調査した自治体や調査を受けた人が特定されないように配慮されています。

全般的に非常によく考慮された調査になっていて、最初から「霊なんかいない」とか「そんな不思議な体験は気のせいだ」というスタンスではなく、そういうことがあるかもしれないし、ストレスなどの心理的な状態が影響しているだけかもしれないという、非常に懐の広い調査だなと思いました。

それぞれの人の経験談が紹介されているのですが、この本では家族や身近な友人知人が亡くなってその人たちが霊として出てきたという話は「身近な霊」、まったく知らない人が出てきたという話は「未知の霊」として分けて調査していました。

「身近な霊」が出てくるケースについては、それが結果的には残された被災者遺族が前に進む勇気を与えるケースが多く、プラスに働いていることが多いということでした。

(それでも多少はマイナスに働いてしまうケースもありました。)

「未知の霊」については、まったく知らない人がいつの間にかタクシーに乗っていたとか、海岸をたくさんの亡くなった人が歩いていたなどのケースがあるようですが、それらも津波で命を落とした人たちに対する同情や供養の気持ちが一般的で、おもしろおかしく恐怖をあおるだけというのはあまりなかったそうです。

今回この本で初めて知ったのは、宗教者(特に仏教の僧侶)が霊の存在を基本的には認めていないということでした。

キリスト教が霊の存在や霊体験を認めていないことは知っていましたが、仏教も基本的なスタンスが「霊を信じない」だということは知りませんでした。

しかし、被災地に支援で入った宗教者たちは被災者から不思議な話をたくさん相談されたり、実際に供養などの儀式を行っている際に不思議な体験をしたこともあり、「完全に信じない」というスタンスではないようです。

宗教者への聞き取り調査では、仏教やキリスト教などのメジャーな宗教だけでなく、新興宗教などの宗教者へも聞き取りを行っていて、偏見のない調査に驚きました。

被災者は「身近な霊」による霊的体験をしたとしても、なかなかそれを周りに話すこともできず、他地域から支援にやってきた宗教者にやっと話せたと喜ばれることも多々あったようです。

被災して家族を失い一人になってしまった高齢者などはそういう霊的体験があれば、誰かに話したいだろうなという気持ちはよく理解できました。

被災地においては、「怪談話」としておもしろおかしく取り上げられてしまうことが多い霊的体験ですが、この本の調査では「未知の霊」による霊的体験はそんなに数もなく、ほとんどは「身近な霊」がいつも自分を見守ってくれている、それによって前に進んでいこうという気持ちになったという話がほとんどでした。

亡くなった人と心の中でつながっていてそれによって少しでも前に進んでいけるのであれば、別にそれは良いのではないかと思っています。

一度に多くの人の命が津波で奪われた被災地でこのような冷静な調査が行われ、「幽霊が出た」という風評被害に近い噂をきちんと分析して誤解を解いてくれるのは、被災地にとっても良いことなのではないかと思いました。

震災を別の角度から改めて考える素晴らしい本でした。

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