出版日:2020年1月22日
ページ数:318ページ
この本は自分が常識だと思っていたことの根底を覆す本でした。
しかも、どうしてそうなるのかをきちんと論理的に説明してあり、とても面白く、説得力のある本でした。
著者はスイス人なのですが、日本とのバックグラウンドの違い、考え方の違いも興味深く感じました。
この本、全世界でかなり売れているとのことなので、欧米でもこういう考え方の著者は珍しいのかもしれません。
この本では一般的に「こうしたほうが良い」「これが常識」と思われていることを根本から疑っています。
例えばボランティア。
ボランティアは一般的に素晴らしいことと思われていますし、実際、正しいやり方で行うのなら人の役に立つことだと思います。
「42 お金を寄付したほうがいいわけ【ボランティアの浅はかな考え】」という章ではボランティアについて書かれています。
ボランティアに関する考え方は様々ですが、私も基本的には素人ボランティアが変に手を出すよりもお金を寄付したほうがいい思っています。
自然災害の後片付けのように、とにかく人手が欲しいというボランティアは別として、ある程度のスキルが求められるようなボランティア活動については、「楽しいから」「新しい体験をしたいから」という理由でやるべきではないと思っています。
この本でも書かれていたのは、あるカメラマンが自分の仕事や生き方にふと疑問を感じ、「何か世の中に貢献したい」という思いに駆られます。
そんな時に知人から「野鳥の巣箱作りのボランティアをしないか?」と誘われます。
この章では、このカメラマンはボランティアへの参加の仕方を考えるべきだということが理論立てて書かれています。
彼が巣箱作りのボランティアに参加することは木工職人の仕事を奪うことであり、素人の彼が作るよりもはるかに巣箱作りのプロである木工職人にお願いできるお金を寄付すべきだということが書かれています。
ボランティアには「奉仕の精神」というテーマが付きまといますが、実際にボランティアに参加している人に尋ねると「楽しいから」「新しい経験をしたいから」という自分の欲求でボランティアをしてる人が多く、そうなると「奉仕の精神」とは懸け離れたものになるとこの本には書いてあります。
(全部のボランティアがそうではなく、ボランティアの種類によります。)
それなら仕事を増やしてその分のお金を寄付したほうがはるかに世の中の役に立つというのが著者の考えです。
私は長年通訳や翻訳の仕事をしてきたのですが、通訳ボランティアをやった時に、趣味で英会話をやっている年配の女性が外国人とトラブルになりました。
彼女は英語を話して楽しくボランティアという部分だけで参加していたのですが、実際にトラブルが生じると自分では解決せずに逃げてしまいました。
楽しくボランティアに参加すること自体が悪いとは思いませんが、「楽しく」ばかりを重視してトラブルを起こしてしまうくらいなら、ボランティアではなくお金を寄付することのほうがよっぽどいいのではと、その当時思いました。
この本でも、その分野の素人でも「楽しいから」という理由でボランティアに参加してもいいのは道を歩くだけで誰もが振り向くような有名人だけだと書かれています。
彼らはその活動の広告塔になれるからです。
ボランティアひとつを取っても、「ボランティアは奉仕の精神で行うんだから素晴らしいもの」という思い込みではなく、その活動に素人が参加することの影響を考慮すべきだという観点から書かれていて、とても面白いなと思いました。
この本では52の項目について様々な思い込みを理論立てて解説してあり、自分がどれだけ間違った思い込みを抱えながら生活しているのかを改めて知ることができます。
318ページの本ですが、面白く読みやすいので、あっという間に読むことができます。
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