出版日:2022年2月19日
ページ数:228ページ
とても面白い本でした。
私たちが日本語で海外の小説やノンフィクションを読むことができるのは、誰かが日本語に翻訳してくれているおかげです。
英語、フランス語、ドイツ語などのメジャー言語の翻訳者はたくさんいますが、マイナーな言語の文学を翻訳してくださってる方もいらっしゃいます。
この本では9人のマイナー言語翻訳者へのインタビューが載っています。
この本を読むと、世界は本当に広いということを改めて実感します。
この本ではヘブライ語、チベット語、ベンガル語、マヤ語、ノルウェー語、バスク語、タイ語、ポルトガル語、チェコ語の翻訳者を紹介しています。
私も長年企業内翻訳者として働いてきましたが、日英の翻訳でした。
日英翻訳者は辞書もテキストも豊富にあるし、ネットで検索したり翻訳ツールも山のように揃っています。
ところがマイナー言語の翻訳者は辞書を探すことから始めなければならない。
今でこそネットでいろいろな言語を機械翻訳したり(といっても、正確性はイマイチ)、海外から辞書を取り寄せることもできるようになりましたが、ネットがここまで広がる以前は本当に大変な状況だったことがよく分かります。
マイナー言語の現地に留学したり、自分で言語を研究しながら辞書を作ったり、「翻訳」以前にやらなければならないことがたくさんあるのです。
この本で紹介されているマイナー言語の翻訳者は、大学や大学院でその言語について勉強し研究者になっている方がほとんどでした。
マイナー言語の研究をしながら翻訳も手掛けてくださってるおかげで、私たちは海外の珍しい小説やノンフィクションなどを読むことができるのだなと改めて思いました。
この本ではそれぞれの翻訳者がどのような経緯で翻訳を始めたのか、マイナー言語で翻訳ができるようになるまでどのような努力をしたのかなど、こと細かく書かれています。
また、各翻訳者の章の最後ではそれぞれの言語や国を知るための本や翻訳通訳に役立つ本も紹介されており、とても参考になります。
私が一番印象に残ったのはマヤ語の翻訳者である吉田栄人さん。
マヤ語という言語があることは知っていましたが、メキシコはスペイン語が公用語なので今はほとんど使われていないと思っていました。
ましてマヤ語で先住民が小説などの文学作品を書いているとは思いもしませんでした。
南米の先住民というと、その文化や習慣のほうに注目してしまい、文学作品まで意識することはあまりありません。
先住民の暮らしや習慣を背景に、マヤ語で文学作品が書かれていて、それを日本語に訳してくださってる方がいる。
その翻訳のおかげで、私たちは日本語でマヤ語の文学を読むことができる。
そう考えるととても壮大で凄いことだなと思いました。
翻訳というと、英語やフランス語などのメジャー言語の翻訳について語られることが多いのですが、マイナー言語の翻訳者の話は私たちに新たな世界を見せてくれる扉であることを知りました。
マイナー言語翻訳者のおかげで広い世界を垣間見ることができることに、感謝の念を抱きました。
コメント