人間の強さを垣間見ることができる本-「無人島のふたり」山本文緒

エッセイ

発売日:2022年10月19日

ページ数:176ページ

余命を知らされた後にこんなに冷静に、最期の日までの生活を淡々と書き残すことができる人はなかなかいないと思います。

これは作家だからできることなのか、それとも山本文緒という人だからできることなのか

今までいろいろな闘病記を読んできましたが、こんなに凄い闘病記は初めて読みました。

山本文緒氏の作品は今まであまり読んだことがなかったのですが、この本を読んで今さらながら山本氏の偉大さを知りました。

著者の山本文緒氏は2021年10月に膵臓がんでお亡くなりになりました。

病気が発覚してから亡くなるまでの5か月間の生活や闘病の状況をこの本ではこと細かく書いています。

山本氏は2021年4月に突然膵臓がんステージ4bと診断されます。

かなり進行してしまっていたため治療法はなく、抗がん剤で進行を遅らせることしかできませんでした。

抗がん剤治療の副作用がかなり酷く、山本氏は抗がん剤を止め、2021年5月から緩和ケアに進むことを決めます。

ホスピスには入らず、訪問診療をしてくださるクリニックと契約をして在宅で緩和ケアを受けることになります。

ご主人と2人暮らしで軽井沢にお住まいだったのですが、季節の移ろいや少しずつ進行していく病状などが淡々と書かれていました。

山本氏の膵臓がん発覚の経緯を読んでいると、膵臓の病気というのは全般的に本当に悪くなってから見つかることが多いのだなと改めて思いました。

この本は闘病記というか、亡くなるまでの最後の日々の記録なのですが、一般的な闘病記にあるような「辛い」「苦しい」「死にたくない」「悲しい」という言葉がほとんど書かれていません。

そのため、患者の苦しい感情に巻き込まれることがなく淡々と読み進むことができる本でそこが他の闘病記とは全く異なると思いました。

自分の死期をきちんと自覚して淡々と生前整理や葬儀の手配を行っていく山本氏の強さにも驚きました。

驚きと共に、自分もそうありたいと思いました。

一般的な闘病記のような悲壮感や感動ものになっていない、非常に優れた記録の本だなと思いました。

山本文緒氏のご冥福をお祈りすると共に、こんなに素晴らしい最期の記録を残してくださったことに感謝したいと思います。

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