発売日:2022年6月7日
ページ数:216ページ
自分はまともだと思っていても、周りの人間が全員気が狂っていたら自分のほうが「まともじゃない」ということになります。
そんな気持ち悪さ、「自分の感覚がおかしいのか、それとも周りの人間の感覚がおかしいのか」とずーっと考えさせられる小説でした。
気持ち悪いんです。モヤモヤするんです。
でも、うまく説明できないんです。
そういう気持ちをずーっと引っ張りながら読む小説です。
ラストを読んでも、なんとも後味の悪い気分にさせられる話でした。
が、なぜかこの作家さんの他の作品も読んでみたいと思わされる、不思議な世界でもありました。

とある街に「むらさきのスカートの女」と呼ばれている女性がいます。
その人は商店街や公園を歩いてるだけでも周りから奇異な目で見られています。
と、「黄色いカーディガンの女」が語る形で話が進んでいきます。
だんだん読み進めていくうちに、「本当にむらさきのスカートの女は周りから奇異な目で見られているのか?」すら怪しく思えてきます。
「黄色いカーディガンの女」の妄想ではないかと感じるのです。
「黄色いカーディガンの女」は「むらさきのスカートの女」と友達になりたいのだけど、声をかける勇気がありません。
でも、「むらさきのスカートの女」の一挙手一投足まで詳細に観察しています。
ストーカーです。
どうしても友達になりたい「黄色いカーディガンの女」は自分が働いているホテル清掃の仕事に「むらさきのスカートの女」が応募するように工作して、ついに同僚になります。
「むらさきのスカートの女」は最初は地味でおとなしい女性だったのですが、ホテル清掃の仕事で自信をつけたのか、上司と不倫し始めます。
どんどん変わっていく「むらさきのスカートの女」。
ホテル備品の盗難事件が勃発し、備品を盗んだ犯人は「むらさきのスカートの女」ではないかと疑われます。
不倫相手の上司は庇うどころか、「俺は無実だと証言してくれ」と言い出します。
その言い合いの最中、その上司は「むらさきのスカートの女」のアパート2階から転落してしまいます。
その様子を目撃していたストーカーの「黄色いカーディガンの女」が「むらさきのスカートの女」の逃亡を手助けします。
上司は助かりますが、「むらさきのスカートの女」は「黄色いカーディガンの女」との約束を破り、姿を消してしまいます。
なんだろ、最初は「むらさきのスカートの女」がちょっとおかしいのかと思っていたんだけど、読み進めるうちに「いや、黄色いカーディガンの女がおかしいのではないか」と思い始めます。
彼女は完全に「むらさきのスカートの女」のストーカー。
だからといって、「むらさきのスカートの女」に対しても全く同情や共感はできません。
不倫相手の上司も「むらさきのスカートの女」がストーカーで、自分は被害者だと言い出す始末。
全員が狂気を帯びていてまともな人が全然出てこない小説です。
その狂気の世界が淡々と繰り広げられていくので、読者側が「あれ?なんかおかしいんだけど、堂々と話が進んでいくのはなんでだ?」とモヤモヤさせられます。
小説の中で誰もそのおかしさや狂気を指摘しないことにも違和感を感じます。
なんとも言えない気持ち悪さがひたすら続く小説で、感想もうまく書けません。
でも、この作者の小説はまた読んでみたいと思いました。
気持ち悪いけど、もう少し覗いてみたいという感じかな。
「この街には住みたくないなー。でも、こういう狂気をはらんだ人はどこにでもいるのかもしれないなあ」と思わされました。
日常に潜むホラーを垣間見たい人におススメの1冊です。
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